前置詞・接頭辞・副詞をまとめて覚える理由|オリジナルはいずれも印欧祖語・語根!

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英語(・独語・仏語…)の前置詞は、
①接頭辞や副詞と一緒に、かつ、②印欧祖語の語源に遡って覚える のが効率的です。

なぜかというと、
①前置詞は、副詞 > 接頭辞 > 前置詞 の順に発展してきたもので、
②「副詞」は、印欧祖語の語根がオリジナルだから です。

そこで今回は、「前置詞の歴史」をひもときながら、「前置詞・接頭辞・副詞をまとめて覚える理由」について、ご紹介したいと思います!

前置詞・接頭辞・副詞は、印欧祖語 語根から派生

別記事でご紹介している「前置詞マッピング」には、英語・独語・仏語…の前置詞理解に役立つように、古代ギリシャ語・ラテン語の前置詞に併記させるかたちで記載するとともに、印欧祖語(の語根)もつけています。

しかしながら… 印欧祖語には前置詞はありません。

ヨーロッパの言語(英・独・仏・伊・西・露…)はもちろん、古代ギリシャ語、ラテン語、さらには、サンスクリット語においても、前置詞は豊富に使われているのですが、
それらの先祖「印欧祖語」には、「前置詞はなかった」と考えられているのです。

それでも、「前置詞マッピングに印欧祖語を併記している」のは、
「前置詞・接頭辞・副詞はもともと同じもの」で、「オリジナルのかたちは、印欧祖語 語根に遡る」からです。

これについて、これから詳細に説明していきます。

前置詞とは

前置詞と後置詞

そもそも「前置詞」とは、「名詞や代名詞の前に置かれる詞」。
SVOの構文であれば、SV●O という配列になるわけです。(●=前置詞)
※S主語、V動詞、O目的語(名詞・代名詞)

たとえば、英語の文 The boy stands on the bed. は、
The boy (S) + stands (V) + on (●) + the bed (O).
ですね。

ところが、印欧祖語の構文は、SOVであったと考えられています。
つまり、SO●V といった配列が想定されるのです。

言語学者で、日本言語学会会長を務めた松本克己氏の論文『印欧語における統語構造の変遷』(日本言語学会の学会誌「言語研究」第68号・1975年 より)には、次のように書かれています。

印欧祖語には「前置詞」がなくて、その代りに「格」の機能を語の末尾で標示する「格組織」が存在したという事実こそ、印欧語がOV的統語型の言語であったことの最も確かな証拠であると言ってよい。(P31)

この場合、● は、「名詞・代名詞の後に置かれる詞」つまり「後置詞」となるわけです。

日本語は、後置詞型の言語です。
その少年は ベッドの上に 立っている。
「に」は後置詞です。いわゆる「てにをは」で、日本語の文法では「格助詞」と呼ばれます。
構文は、SVOです。(その少年(S)は + ベッドの上(O)に + 立っている(V))

「基本語順が、主語-目的語-動詞(S-O-V)であれば、その言語は後置詞をもつ」(松本 P15)というのが、言語学上の定石のようで、日本語は、その典型です。

すこし、補足しておきましょう。

  • 日本語は、基本語順がSOVなので、後置詞(格助詞)を持ちます
  • 英語は、基本語順がSVOなので、前置詞を使います

ところが、

  • ラテン語やロシア語では、SVO同様、SOVも使えます。
  • かつ、(英語同様)前置詞を使いながら、後置詞も持っている(てにをは=格変化がある)んです!

文例を挙げましょう。

  • 英語  (SVO) The boy stands on the bed.
  • ラテン語(SVO) Puer stat in lectulo.
  • ラテン語(SOV) Puer in lectulo stat.
  • ロシア語(SVO) Мальчик стоит на кровати.
  • ロシア語(SOV) Мальчик на кровати стоит.

ラテン語 in、ロシア語 на は、前置詞。
ラテン語 lectulo の「o」、ロシア語 кровати の「и」は、後置詞(格変化した名詞の語尾)です。

前置詞は、副詞から発展

前置詞と後置詞について見てきましたが、前置詞の話に戻しましょう。

「前置詞は、副詞から発展した」というのが、言語学上の定説です。

印欧諸言語で「前置詞」と呼ばれるようになった諸形式は、よく知られているように、本来は動詞の意味を限定する副詞的自立語であった。(松本 P33)

たとえば、ポピュラーな前置詞「up 上に」は、名詞・代名詞の前に置かれるようになる(前置詞となる)前は、「副詞であった」ということです。

じっさい、up の語源は、印欧祖語 *upo/*(s)up-(下; 下から上へ under; up from under)で、語義を見ても、「副詞」として自立していたことが分かります。

句動詞(動詞+副詞)の「後置詞」用法

句動詞(動詞+副詞)、たとえば、stand up, wake up, bring up, look up なども、up は動詞の意味を限定するために使われています。

英語の句動詞には、後置詞的な用法も残っています。
たとえば、wake up, bring up, look up は、wake me up, bring me up, look me up などの場合は、代名詞の後に up が来ています。つまり、up は後置詞になっています。

ドイツ語の分離動詞も、英語の句動詞と同じようなもので、分離した「前綴り」は、後置詞となります。

たとえば、up に相当するドイツ語 auf(up 同様、語源は *upo/*(s)up-)をもつ aufmachen(開ける)は、macht + auf に分離します。
例 Der Junge macht das Fenster auf. / The boy open the window.

句動詞の起源は、接頭辞+動詞

英語に多用される「句動詞」ですが、起源は、古英語の「接頭辞付きの動詞」のようです。

英語学の専門家、神谷昌明氏(豊田工業高等専門学校 教授)の論文『句動詞の起源・発達』序文に、
「接頭辞付動詞,特に up- + 動詞,out- + 動詞を全て抽出し,句動詞(動詞+副詞辞)の起源である古英語(OE)に現れる接頭辞付動詞の基礎資料を作成した」と記載されています。

up- を接頭辞に持つ英語の動詞は、uphold, uproot, uplink など、現代英語においては少数ですが、古英語時代は、もっと沢山の up- + 動詞 があったということです。

※ちなみに、out- 動詞は、outdo, outfit, outflow, outline, output, outsource, outspread, outstretch など、現代英語にも豊富に残っています。

前出、ドイツ語の auf- 分離動詞も「接頭辞付きの動詞」です。

auf- を接頭辞にもつドイツ語語単語は、Wiktionary で検索しただけでも、動詞を中心に 147語 もあります!

英語、ドイツ語だけでなく、イタリア語、フランス語、スペイン語、ロシア語にも、さらには、ラテン語、古代ギリシャ語、サンスクリット語…にも、接頭辞付き動詞は、豊富にあります。

少し屁理屈的になりますが…
ロシア語、ラテン語などのように、接頭辞付き動詞がSOV構文で使われる場合、その接頭辞は後置詞になります。(接頭辞を含む動詞全体が目的語の後ろにくるので)

後置詞の起源については、SOVとSVO構文、格変化、膠着言語(てにをは)と屈折言語(印欧語など)… さまざまなテーマが絡むので、別途、あつかいたいと思います。

歴史:副詞>接頭辞>句動詞>前置詞

今まで見てきたことをまとめてみましょう。
up の用法的な歴史を古い順に示すと、次のようになります。

  1. 副 詞:印欧祖語 *upo/*(s)up-(下; 下から上へ under; up from under)
  2. 接頭辞:up-(古英語~。現代英語では僅少)、auf-(現代独語でも豊富)
  3. 句動詞:look up, wake up など(現代英語で豊富)。独語の分離動詞も
  4. 前置詞:up(英語), auf(独語)

ちなみに、up について、「より高いところへ」という意味の前置詞用法が始まるのは、1500年代(16世紀)以降(=近代英語以降)のようです。

As a preposition, “to a higher place” from c. 1500(Etymonline

まとめ:印欧祖語で、前置詞がハッキリ分かる

「副詞>接頭辞>句動詞>前置詞」の歴史的な流れで分かるように、前置詞のオリジナルを遡って行くと、「副詞の時代」に行き着きます。

前置詞が副詞であった時代とは、すなわち、印欧祖語の時代です。

つまり、印欧祖語「語根」に遡れば、古代ギリシャ語・ラテン語、英語・独語・仏語…の前置詞のはたらき(意味・カタチ)が明確になる、と考えられます。

これが、前置詞マッピング」に、印欧祖語の語源を併記している理由になります!

印欧祖語の語源に遡るメリットについてですが…

私の「前置詞マッピング」には、印欧祖語の語根 *per-¹ が6回登場します。
*per-¹ を語源にもつ古代ギリシャ語またはラテン語前置詞が、6個あるということです。

つまり、*per-¹ の語義をしっかり掴んでおけば、ギリシャ・ラテン語の重要前置詞6個が分かる、ひいては、英語(・独語・仏語…)の関連前置詞の使い方が分かる、ということになります。

そして、繰り返しになりますが、前置詞は、副詞・接頭辞といっしょに覚えるのが、効果的です。

最後に…
ドイツ語でよく使われる20個の接頭辞・前置詞をひとつの図解にした記事がありますので、ご紹介します。

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